秀808の平凡日誌

第壱拾弐話 変化




 ヴァンとロレッタの放った奇襲攻撃を、ものともせずに耐え抜いたネビス。

 今は息も落ち着き、普通の言葉遣いに戻っていた。

「…私にこれほどの傷を負わせるとは、流石はブルン守護兵団のメンバー…といったところですね。」

 ヴァンが、その様子見て慌てることはなく、冷静に今すべき事を考えていた。

(この女、どうなってる?人間じゃないのか?)

 ネビスが左胸から大量の血を流しながら言葉を続ける。

「…オヤ?なぜ私が死んでいないのかということに、さぞかし驚いているようですね。」

「…!」

「でも、私にばかり気が向いていては、長生きできませんよ?」

 その意味に気付いたヴァンとロレッタが、咄嗟のところで振り下ろされたスウォームの爪による一撃を避けた。

 さっきまで2人の居た地面が粉砕され、岩片があたりに飛び散る。

「…我ヲ忘レテモラッテハ困ル」

 その様子をクスクスと笑いながら、ネビスは言う。

「ふふふ…もっと面白いものを、見せてあげますよ。」

 ネビスが黒龍に振り向き、聞く。

「黒龍様、あの力の使用許可を。…3分でカタをつけてご覧に入れましょう。」

「…ヨイダロウ、何分デモヨイガ、使イスギハ後々面倒ダゾ」

 黒龍から【力】の使用許可を得たネビスは、手に持っている槍で自らの傷口から流れ出る血を使い、その白き髪全体に染み渡るようにしてかけていく。

 染み渡ったのを確認すると、今度は槍の刃の部分で自らの体を一刺しし、その刃に付着した血で足元に魔方陣を描く。

 描いた魔法陣のくぼみに、ネビスから流れ出た血が魔方陣全体に染み渡っていく。

 そして、何らかの呪文を唱えだすネビス。

「…我、混沌と破壊を齎す神の器にて、今より地獄の使者達のお力、お借りしてたまらわん…」

 呪文を唱えていくたびに、ネビスの周りに熱気が篭り始め、槍の形状が序々に変貌していく。

「…!まさか、貴様っ!!」

 その行動と変化に検討がついたのか、ヴァンが『ソニックブレード』を放つ。

 ソニックブレードが直撃したと同時に、あたりにかなりの量の煙が撒き散らされる。

「…やったか…?」

 その言葉を言った次の瞬間。

 煙の中から、なにやら鞭のようなしなる物が放たれ、ヴァンの右頬を直撃し、パァンという派手な音をたてる。

 衝撃が思ったより強かったのか、少し吹っ飛ばされるヴァン。

「ぐぁっ!」

「ヴァン!」

 ロレッタが駆け寄ると、一撃を食らった頬に鋭い裂傷ができていた。

「…さぁて、反撃開始といきますよ…」

 煙の中から、血で赤く染まった髪が腰まで伸び『インストラクター』と呼ばれる鞭を手にしたネビスが、こちらを見ていた。




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